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最高裁判所第三小法廷 昭和56年(行ツ)153号 判決

東京都新宿区百人町一丁目五番六―三〇七号

上告人

三信観光株式会社

右代表者代表取締役

岡沢まき

山下輝治

右訴訟代理人弁護士

安達十郎

東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号

被上告人

淀橋税務署長

小松幹雄

右指定代理人

古川悌二

右当事者間の東京高等裁判所昭和五五年(行コ)第六三号法人税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和五六年五月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人安達十郎の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤正己 裁判官 横井大三 裁判官 木戸口久治 裁判官 安岡滿彦)

(昭和五六年(行ツ)第一五三号 上告人 三信観光株式会社)

上告代理人安達十郎の上告理由

一 理由不備の違法

原判決は、アルザス、キャロット両店における現金売上高の総売上金額に対する割合について、上告人が甲第二号証を援用して、およそ一三%前後において一定していると主張したのに対し、同号証の算定の基礎とされている総売上金額が実際に正当であることが認められないから、同号証の記載は客観的に真実な金額に基づいて算定されたものとは認められない旨判示している。

しかし、原判決の右判示は全くの独断である。同号証記載の売上金額は上告人会社の昭和四八年度乃至同五〇年確定申告書添付決算報告書記載金額と同一又は近似しており、上告人会社は右各年度の確定申告については、税務調査もなく、更正決定も受けていないものである。

のみならず、右各年度については、本件の両年度の確定申告について淀橋税務署の調査がなされ、現金売上計上洩れの指摘がなされた後のものであって、上告人会社においては、右調査後は現金売上についても正確な帳簿記載をなし、(なお、掛売上についての帳簿記載が本件両年度分についても正確であることは被上告人の認めるところである)、この帳簿記載に基づいて確定申告をなし、その申告について何ら更正決定を受けていないのである。

そうであれば、甲第二号証記載の売上金額は正当なものとみなされなくてはならないものである。

上告人は原審において右の趣旨を準備書面で主張したのであるが、原判決はこの点について何ら言及することなく、ほしいままに同号証の記載金額を正当と認められないと判示しているのであって、原判決の理由に不備のあることが明らかである。

二 経験則、採証法則違反の違法

(一) 原判決は、本件各事業年度の売上金額の推計によって算定する必要があったと認定した第一審判決の判断を正当としている。

しかし、本件クラブ両店の売上額の主要な部分は掛売上げであり、その売上額については正確な帳簿記載がなされている。そして、現金売上についても、伝票は破棄されていたが、帳簿記載はなされており、その記載に若干の記載洩れがあったにとどまるものである。これらの記載洩れについては、調査官が上告人会社の経営担当者、取引先に対し質問その他の調査権を行使すれば把握できたものである。

原判決は右のような経験則、道理を無視し、安易に推計の必要性を認めているものである。

(二) 原判決は、上告人会社の役員等が他人の経営するクラブ等において飲食した費用は募集費として損金とはならず、上告人会社の役員等の慰安のための費用として交際費等に該当するとした第一審判決の判断を正当としている。

しかし、本件の事業年度に当時においては、クラブ各店におけるホステスの争奪戦が熾烈を極めた時期であり、ホステスの獲得はクラブ経営者の業務の主要な部分を占めでいたのであり、本件の他店飲食もすべて右募集のためであったものである。このことは第一審原告会社代表者本人山下輝治、原審証人山口弘二の証言から明らかなところである。

しかるに原判決は、役員等が連日のように、あるいは同一日に複数の店で飲食したという理由だけで慰安の飲食と認定し、右のホステス争奪戦という特殊事情を全く無視して誤った判断をしているものである。

(三) 原判決は、上告人会社が本件各事業年度の法人税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき取引の事実の一部を隠ぺいし、その隠ぺいに基づいて確定申告書を提出していたと認められるので、重加算税を課すべきであるとした第一審判決を正当としている。

しかし、本件において、売上金額の一部が別口預金に入金されたこと、売上金額の記載もれ等のあったことは事実であるが、右記載もれの金額は売上総金額に比して僅少であり、別口預金は故意の隠ぺいのためになされたのではなく、創業時の特別事情に基づく必要性によりなされた措置にすぎない。このような軽微な隠ぺいは、いわば、加罰的な違法性はないものであるから懲罰的性格を有する重加算税は課すべきではないと考えられる。

しかるに、原判決は右の事情を全く無視し、安易に重加算税を課すべきものと判示しているものである。

以上

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